坐骨神経痛は慢性的に腰痛をお持ちの方が発症しやすい傾向にあります。
主にお尻・太ももの後ろ・すね・足先に痛み・しびれ、酷い場合には麻痺や歩行困難などが現れる状態を言います。
(坐骨神経痛の症状)
・歩行中に痛みと痺れで急に歩けなくなり、少し休むと歩けるようになるが再び痛みと痺れで歩け なくなる。(これを間欠性跛行といいます。)
・足裏の感覚が鈍くなり、靴下を何枚も重ね履きしているような感じになる。
・痛みやしびれ以外にも、チリチリした感じ・足が重くなる・足に力が入らない・足が冷たくなる・
症状の出ている足だけが細く痩せてしまう。
といったものが挙げられます。
(坐骨神経痛の原因)
主な原因は、慢性的な腰痛によって腰の骨やお尻の筋肉に異常があらわれることです。
腰の骨の異常としては『椎間板ヘルニア』などによって腰の神経を圧迫することで発症するケーす。
お尻の筋肉の異常では、梨状筋という筋肉が 固くなりすぎることで坐骨神経を圧迫する『梨状筋症状群』があります。
(病院での治療法)
これらの症状に対し西洋医学的な治療法では、薬物投与・神経ブロック注射・手術・リハビリテーションがあります。
これらの治療は有効な場合もありますが薬物療法にはさまざまな副作用があり、安心できる治療法とは言いきれません。神経ブロック注射は、何度も試用すると身体が薬に慣れてしまい効きにくくなってくるため頼り過ぎるわけにはいきません。また手術も成功すれば良いですが、かなりのリスクも伴います。当院で今までに診てきた患者様の中にも手術を受けたことで更に症状が悪化された方がたくさんおられました。そのため、当院では本当にどうしようもない時以外には控えた方が良いと考えています。
西洋医学的な治療に比べて 東洋医学の 治療法は身体への負担もなく、また しびれや知覚異常は鍼灸の得意分野でもあります。
肝虚陰虚証の特徴
激しい痛み・チリチリするような痛み・
温めると悪化・起床時に最も辛く徐々にマシになる>
長引くと肝虚陽虚証になる
肝虚陽虚証の特徴
鈍い痛み・温めるとマシになる・片足だけが痩せ細っている・
足を冷やすと悪化する・朝が最も辛い
肝実証の特徴
普段は鈍い痛みだが、夜になると激しい痛みになる
痛む場所が移動することがある
基本的には肝の経絡や胆の経絡のラインに症状が現われる
揉んだりマッサージをすると楽になる
(坐骨神経痛の東洋医学的な捉え方)
それでは坐骨神経痛の東洋医学的な説明をしていきましょう。
坐骨神経痛の原因は腰椎や腰、お尻周りの筋肉の異常です。東洋医学に於いてもそれは同じですが治療法に関しては、そこには注目していません。
これは坐骨神経痛に限らず東洋医学全般に言えることですが、古典の経絡治療では施術を行うのはあくまで、人体の気と経絡に対してであって、基本的には神経や骨を直接どうにかしようとはしません。
ツボに鍼やお灸をすることで経絡が整えられ気が全身を巡ると、その結果として筋肉が緩んだり神経痛や炎症・冷えも改善していくという考え方です。
そしてその気の偏りや滞っている異常を『証』という言葉で表しています。
では坐骨神経痛にはどのような『証』があるのでしょうか?
肝虚証・肝実証・腎虚証
おおまかに分けてこの3つのタイプがあります。
まずは、肝虚証についてです。
肝虚証はさらに
肝虚陰虚証と肝虚陽虚証の二つに分類されます。
先にそれぞれのまとめを書きます。
肝虚陰虚証の特徴
激しい痛み・チリチリするような痛み・
温めると悪化・起床時に最も辛く徐々にマシになる>
長引くと肝虚陽虚証になる
肝虚陽虚証の特徴
鈍い痛み・温めるとマシになる・片足だけが痩せ細っている・
足を冷やすと悪化する・朝が最も辛い
ということになります。
ここからの説明は少し長くなりますので「肝虚陰虚証や肝虚陽虚証とは何なのか?」
「もっと詳しく東洋医学の考え方を知りたい!」
という方にだけオススメします f^_^;
肝虚陰虚証とは、
過労・目の使い過ぎ・長期間のストレス・イライラを我慢するなどが原因となって、肝の津液(体を潤す水分)が損なわれ肝に熱がこもっている状態です。
『陰虚証』 といった病症を表すの場合の『陰』とは津液という形あるものを表し、身体を潤し冷やす性質のものです。それが不足する、即ち『虚』の状態になっている。
という意味です。
肝に熱が出るため、肝臓・肝の経絡・肝の支配する体の部位 (目・全身の筋肉・陰茎)に熱感や
痛み、機能不全があらわれます。
肝の経絡は足の親指のつま先から、ふくらはぎと太ももの内側を通って胸の辺りまで続いています。
そのため肝虚陰虚証で坐骨神経痛になると、足のつま先から付け根までに激しい熱痛を感じたり、
温めると余計に痛みが増したりします。
他にも肝の特徴は人の一生では幼少期、一年でいうと春、一日では早朝に相当することです。
そのため肝経絡に異常があると、起床時に痛みが強く、動いてると段々とマシになってきます。
坐骨神経痛で、特に朝が辛くて昼頃になると状態が軽くなる場合は、肝虚陰虚証が考えられます。
この肝虚陰虚証は肝の津液が不足して熱を持つ訳ですが、このように津液不足から発生する熱を
『虚熱』と言います。(弱い熱という意味ではありません)
この虚熱は、病性の熱なのでいつまでも熱を保つことはできません。
そのため病が治っていないのに虚熱が弱くなってくる時期があります。
すると今度は肝の陽気(肝が持つ本来の熱)までも弱くなってきて、今までとは反対に冷えの症状を
現しはじめます。これを『陽虚』と言い、肝の臓や経絡で陽虚が発症すると肝虚陽虚証といいます。
このように肝虚陰虚証は治さずに放置していると多くの場合、肝虚陽虚証に移行します。
では次に肝虚陽虚証についてです。
『陽虚証』という病症をあらわす場合の『陽』とは気を意味します。形の無いもの、熱性のものです。
イメージ的には人体の中の「火」といった感じでしょうか。その火が不足するので『冷え』の病症がでてきます。
陽虚証になる原因は陰虚証からの移行、元々の体質で陽虚証になりやすいもの、出産・中絶や事故・大ケガなどで大量出血した場合、などがあります。
肝虚陽虚証は慢性的な症状なので、坐骨神経痛の場合も症状が固定的になってきます。
そのため患部がしびれており、もう片方の足と比べると痩せ細っている場合が多く、鈍い自発痛があります。
そして陽虚つまり『冷え』の症状ですのでマッサージや温めたりすると気持ちよく感じ、冷やすと症状が悪化します。起床時に辛いのは肝虚陰虚証と同じです。
次に肝実証についてお話していきます。
『肝実』とは体調不良の元となる余分な血液、すなわち『瘀血(おけつ)』が身体に停滞しているという意味です。では『瘀血』はどうしてできてしまうのか?
東洋医術の生理学で考えると、肝が単独で瘀血を停滞させることはありません。まず肺や脾の働きが悪くなることがきっかけになります。肺とは全身に気やを巡らせる働きがあり脾は全身の血液を統括しています。
それらの気や血液を巡らせる働きが弱くなると肝に瘀血が停滞します。血が停滞すると様々な症状がおこりますが下肢でおこると坐骨神経痛となります。そして足の中でも肝経に異常があると、肝の経絡上はもちろんのこと、その表裏関係に当たる胆の経絡にも症状が現われます。
そこで肝実証による坐骨神経痛でおこる特徴をまとめると以下のようになります。
最後に腎虚証で起こる場合はどうでしょうか。
東洋医学では腎は骨をつかさどると言われ、腎の経絡と骨は密接に関わっています。
そのため腎虚が長く続くと骨が枯れて髄が不足して足が弱くなります。
そして更に時間が経つと脚弱・痛み・痺れ・足が萎えて細くなる・重だるく鈍い痛みがあるというような症状が現われます。
また腎の経絡とは膀胱の経絡と表裏関係で繋がっているため、腎経の異常は膀胱経にも現れます。
これらの特徴をまとめると以下のようになります。
このように坐骨神経痛と一言でいっても細かい症状の違いや原因によっていくつかに分類されます。そして証が変われば、当然治療に使うツボも変わってくるのです。