不妊症と鍼灸

不妊症、よく耳にしますが具体的にはどんな基準や定義があるのでしょうか?

世界保健機構(WHO)では「妊娠を考えている夫婦が1年以上妊娠しない場合を不妊症と診断する。」と定められています。


私たちの祖父母位の時代では、一人の女性が5~6人の子どもを産むのは特別なことではありませんでした。1947年の厚生労働省のデータを見ると一人の女性が生涯に産む子供の数(出生率)は平均で4,54人とでています。この頃から段々と日本が豊かになりはじめるのですが、それに従い出生率がどんどん低下していき現在では1,29人となり、人口を維持するための出生率2,08を下回っています。

 

なぜこのような状況になってしまったのでしょうか?

多くの学者や識者の方々が様々な意見・説を述べていますが決定的なものはありません。

おそらくは環境の変化、身体機能の差、社会的な風潮、食べ物の変化、ストレス、生活習慣、子供を育てにくい状況などなど、数え上げたらキリがないほどの色んな要素が絡み合っているためだと思います。これらの影響で本当に赤ちゃんが欲しいと思っても、なかなか授からずに悩んでる方が多いのが今の現状です。


しかし現代では様々な方法によって、その悩みを解決しようと試みています。

西洋医学が発達したお陰で外科的手術が必要な方には、それに相応しい医療が受けられます。

食事療法や生活習慣の見直しをしたいと考えている方には、必要な情報がすぐに手に入る様になりました。

 

東洋医学に於いても昔から子供が授かりにくいという悩みが多かったのか、数々の文献に不妊についての記述や治療法が述べられています。


鍼灸における不妊症の捉え方

不妊症には男女ともに様々な原因があります。

女性側の原因としては、子宮筋腫・子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群・黄体機能不全や高プロラクチン血症などのホルモン異常・原因不明のものなど。

男性側の原因は乏精子症・精子無力症・過労による精力減退などです。

 

このうち子宮筋腫や子宮内膜症などの器質的な問題がある場合は、基本的に専門医の治療をおすすめします。

鍼灸の適応となるのは排卵があり、男性にも大きな問題が無い場合です。

 

それでは鍼灸に於ける不妊症の捉え方です。

東洋医学では「肝」が女性の子宮・男性の陰茎をつかさどるため、不妊症は肝の状態が少なからず影響します。また「肝」は「腎」によって活かされていると考えているため、「腎」が弱くなる場合も不妊になりやすくなります。

以下にそれらをもう少し詳しく述べてみます。

 

◆脾虚肝実瘀血証

   証候:肥満、胸脇部の脹満感

   原因:流産、中絶、出産、月経不順、産後の不摂生

   病理:脾虚肝実には病気のこじれ・生活習慣など様々な原因によって起こ

       るが中絶・流産・月経不順が原因となる場合は下腹部に瘀血が出

       来てしまい不妊となる。

 

◆腎虚陽虚証

   証候:月経が遅い、足腰が弱い、耳鳴り、消化不良による下痢、食欲低下       

   原因:風邪をこじらせる、長い時間にわたって身体を冷やす、房事過多

   病理:腎は「命門の気」という生命力の基となる気を宿し、津液をつかさど

       るところでもあります。そのため男性では元気な精液・精子の元で

       あり、女性では元気な卵を生み出す卵巣を栄養するところです。

       この腎の陽気が少なくなると男女共に生殖機能が弱ります。

 

◆肝虚陰虚証

証候:下腹部の冷え・痛み、寒がり、四肢の冷え、月経色が暗紫色

   原因:中絶、流産、房事過多、肉体的・精神的疲労、

   病理:肝虚陰虚とは血中の津液が少なくなることを言います。そうすると初 

       期の頃はのぼせ・熱痛・血が粘っこくなるなどの症状を現し、子宮に

       充分な血液が廻らなくなります。

       この肝虚陰虚が長引くと脾虚肝実瘀血証や肝虚陽虚証に移行しや

       すくなります。

 

◆肝虚陽虚証

証候:月経量が少ない、めまい、頭暈、身体衰弱、顔色萎黄

   原因:中絶、流産、肉体的・精神的な過労、眼精疲労、房事過多、外傷 

   病理:肝の血そのものが減り過ぎて陽気が無くなっている状態です。血が

       少なく、陽気もないため子宮を温めることが出来ず不妊の症状が現

       われます。また男性の場合は陰茎に血液が廻らず機能しにくくなり

       ます。

 

上記では中絶や流産は色々な証の原因となっていますが、その方の体質によってどの証になりやすいかが変わってきます。 

では次に不妊症の時に使われるツボについて紹介していきます。